機関誌「地球のこども」 Child of the earth

世界(開発途上地域)の食・農事情 第4回カナートの伝統的水利システムによる営み イラン・イスラム共和国 2019.02.12

文:佐藤 秀樹 (国際事業部チーフコンサルタント) 

今回は、筆者がJICAのチーム派遣専門家として関わったイランの食・農事情について紹介します。

イラン・イスラム共和国

日本の約4.4倍の大きさであるイラン・イスラム共和国(通称、イラン)には、人口8,000万人が暮らしています。民族の多くはペルシャ人、クルド人で、言語はペルシャ語やクルド語です。ほとんどの地域は砂漠やステップ気候で、寒暖の差が激しいのが特徴です。例えば、内陸高地に位置する首都テヘランの冬は雪が降り気温も氷点下になる一方で、夏は40度以上になることもあります。

雪が積もる高山(バム周辺地域)

イランは、天然ガスや石油の埋蔵量が多く、重要な外貨獲得の資源となっています。昔から、日本との文化・学術の交流が盛んであることや、日本の政府開発援助(ODA)による農村開発および高度医療等の支援(※)、また、原油は第6位の供給国で、両国は良好な関係を築いてきました。

農業も大変盛んな国で、ナツメヤシ、ピスタチオや花卉等が重要な輸出換金作物となっています。特徴は、多くの農村部でカナートという地下用水路システムを使用することです。これは山からの地下水を水源とし、乾燥地帯での水の蒸発を防ぐために、地下に用水路を掘ってつくったものです。大きいものでは、数十キロにおよぶカナートもあります。

ナツメヤシ

カナート地表入口。カナート(地下用水路)の始まりは古代ペルシアで生まれたとされ、紀元前2千年までさかのぼると言われている。

カナート内部

この水路の途中、地表に通風・維持管理用の穴が開けられ、そこから人が出入りします。作りはとても巧妙で、ユネスコの世界遺産に登録されているものもあります。地域の暮らしを支える重要な水利システムであり、伝統技術・文化でもあります。

薄味で風味を大切にした料理

イランの食事は、シナモン、サフラン等の香辛料やコリアンダー等の香菜をベースとした風味のきいた薄味の味付けが主流です。羊・鳥・牛肉や魚のキャバブ(主として串焼き)が有名で、酸味を好むイラン人はライムやレモン等をかけて食べます。

主食は、小麦粉を発酵させて焼いたナーンや炊いたお米です。また、家庭では羊・牛肉をじっくりと煮込んだスープやシチューが好まれます。飲み物の代表は紅茶で、角砂糖をたくさん入れ甘くしていただきます。

炒めたご飯、魚のキャバブ、野菜

カナートの維持管理には労働力や資金が必要であるため、その全てを保存するのは難しいかもしれませんが、伝統的農業とその食文化の一部が今後も保全・継承されていくことを願いたいです。

参考資料
外務省イラン・イスラム共和国 (2018年10月2日アクセス)
日本貿易振興機構(ジェトロ)イラン(2018年10月2日アクセス)

カテゴリー

最新の記事

地球のこどもとは

『地球のこども』は日本環境教育フォーラム(JEEF)が会員の方向けに年6回発行している機関誌です。
私たち人間を含むあらゆる生命が「地球のこども」であるという想いから名づけました。本誌では、JEEFの活動報告を中心に、広く環境の分野で活躍される方のエッセイやインタビュー、自然学校、教育現場からのレポートや、海外の環境教育事情など、環境教育に関する幅広い情報を紹介しています。

JEEFメールマガジン「身近メール」

JEEFに関するお知らせやイベント情報、
JEEF会員などからの環境教育に関する情報を
お届けします。

オフィシャルSNSアカウント

JEEFではFacebook、Twitterでも
情報発信を行っています。
ぜひフォローをお願い致します!