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小笠原の不思議(5)今とこれからの物語 2022.08.15

島でお気に入りの場所はどこですか?と聞かれることがあります。いつも答えるのは、小港海岸です。子どもとの遊びや仕事、観察会、散歩と時間があれば真っ先に行く場所です。何回も足を運んでいると、その場所のどこが変化しているか気が付きます。

海が荒れていると、砂が削られて海岸線に段差ができます。大雨が降ると、河川の流量が少ないために、いつも河口が閉じている八ツ瀬川に、一気に水が押し寄せ、河口が蛇行していきます。

2022年4月 めずらしく大雨が降り、今まで河口が砂で閉塞していたために蛇行した。

台風のような暴風雨になると、砂が風で飛ばされたり、引波にもっていかれたりして、海岸全体の傾斜が変化します。そして植物が葉を落とし、木が折れ、海浜植物が飛ばされてしまい、極端に変化してしまうこともあります。これも長い時間をかけて少しずつ戻っていきます。なぜなら、ここは天然の海岸で、人が管理する前から自然の力で砂浜が維持されてきた場所だからです。

観察会では、砂を題材にすることがよくあります。河口がせき止められた川で汽水域の生き物観察をします。そして河口が蛇行した時は、安全を確認した上で、大量の水が流れると川がどうなるのかを削れた砂浜を見ながら発見していきます。流れのある時は、木の実を投げて運ばれる様子をみながら、流れている物の重さや形、傾斜、蛇行の内側と外側の力の違いなどを体験していきます。海が濁ることで、海の中に栄養が入り、カニやボラ、エイなどそれを利用する生き物がいるのも見ることもあります。

2022年8月 河口は岩沿いに蛇行し、4月の蛇行の場所にはハマゴウが生えていました。

4月のように砂浜が川の蛇行で削られても、8月にはグンバイヒルガオやハマゴウの海浜植物が生育し、そこに砂がたまり、段差がうまっていきます。自然の力を感じる瞬間です。

 

2022年4月 チガヤにスナヅルが巻き付き、多くが枯れていた。(茶色部分)

別の場所を見ると、チガヤというイネ科の外来種が生えています。このチガヤは、「世界の侵略的外来種 ワースト100」のため、2011年に世界自然遺産に登録されたこの海岸では、どのように管理していくのか議論を呼んでいます。

2022年8月 スナヅルが少しだけ見られるのみで、チガヤの緑が広がっていました。

4月は、チガヤはスナヅルにからまれて枯れていき、極端に少なくなりました。食草としているバッタの数が減ってしまうのではと心配になるくらいでした。しかし8月には、スナヅルは少なくなり、チガヤが広がっていました。外来種の繁殖力の強さを感じます。

この場所は、いろいろな物語を見せてくれます。

手塚幸恵(てづかさちえ)

企業勤務後、国内外のスクーバダイビングの講習やツアーを担当。小笠原ビジターセンターで働いたことがきっかけで、国内外で施設展示や解説方法を学び、生物園やビジターセンター、世界遺産センターで飼育や解説に携わる。仕事の傍ら、子どもを対象に自然観察会や実験教室、星空教室を運営。現在会社役員。小笠原に在住22年目。

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