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Episode 1: 子どもの存在と環境教育
近代以前の社会では子どもは共同体(ムラ)を担う未熟な成員として存在し、ムラ社会の秩序やしきたりを守ることが求められていました。
こうした子ども観を一変させたのが18世紀の思想家ジャン=ジャック・ルソーでした。ルソーは有名な著作『エミール、または教育について』(原題はÉmile, ou De l’éducation)の中で自分自身を投影させた家庭教師が孤児であるエミールを両親に代わって青年期まで育てあげる過程を描いています。そこには興味深いエピソードが度々登場します。
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夕焼けに染まる南アルプス
子どもの好奇心
例えば、美しい夕暮れ時に家庭教師とエミールが地平線上に沈んでゆく太陽が見晴らせるような場所へ散歩に出かけます。翌朝もまた日の出前に同じところへ出かけます。
ルソーは「生徒の注意を自然の諸現象に向けさせるのだ。そうすれば、やがて彼は好奇心を示すようになるだろう。しかし彼の好奇心を育てるためには、けっして急いでそれを満たしてやってはいけない。彼に答えられるような問題をいろいろ与えて、それを解かせるのだ」と言って、子どもの好奇心を刺激するにはすぐに答えを与えてはいけないと戒めるのです。
私自身も子ども時代にこのエピソードと同じような経験があります。
小学校の低学年だったと思いますが、夏休みのある日、太陽がどこから昇るのか突き止めたくなり、夜明け前にこっそり親に内緒で出かけたことがありました。きっと寝る前からワクワクしていたことでしょう。そしてすぐに季節によって太陽の昇る位置が異なることにも気がつきました。
太陽の軌道や地球の自転・公転への興味だけでなく、関心は星空に広がり、天体の運動にも発展していきました。
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秋晴れの八ヶ岳南麓
子どもと環境
さて、ここまでが前置きです。
環境教育を考える視点として、最初に子どもとはどのような存在であるべきかを考えたいと思います。
次回のコラムで詳しく取り上げる「子どもの権利条約」(注1)には「教育を受ける権利」(第28条)、「経済的搾取・有害な労働からの保護」(第32条)を定めています。SDGsの目標4には「質の高い教育をみんなに」が挙げられていますが、現在も児童労働に従事する子どもは1億6,000万人にのぼり(注2)、アフガニスタンでは女子の6割が中等教育を受ける権利を剥奪されています(注3)。
本コラムでは、このような問題意識に基づいて、持続可能な社会の構築に向けた環境教育の新たな可能性について紹介したいと思います。
注釈
(注1)ユニセフ「子どもの権利条約」
(注2)1億6,000万人の子どもたちのうち、7,900万人がレアメタルなどの採掘場で危険有害な仕事に従事している。ILO「児童労働」
(注3)ユニセフ「アフガニスタン 女子中等教育の禁止で、アフガン経済に5億米ドルの損失児童婚や人身売買のリスクも」